イーブンペース理論実践編
「数字のカラクリ」に騙されないために

レースは自然とも戦っている

 では、いよいよイーブンペース理論を応用して、よりレベルの高い走りを実現させましょう。
まずはイーブンペースを「無風状態の中、ゴール地点で丁度エネルギーを使い果たすようなペース」と定義します。5000mで15分50を目指す場合には、使うエネルギーを最小限に抑えるように1000mをそれぞれ3分10で走り続けるのが理想的なペース配分となります。しかしこれを実現することは現実的には困難でしょう。このカラクリを暴いてイーブンペース理論を実戦で活用できるよう考察してみます。
 レースというものは基本的に一人で行われるものではありません。競争相手が存在し、自然という目に見えない相手も存在します。そしてこの微妙な違いが理論を様々な形で揺さぶるのです。
 レースを進める上で他人の後ろを走るほうが楽だということは自明の理ですが、それは単に精神的要因だけではありません。一見何もないように見える無風状態でも、空気抵抗という敵が存在するのです。これも終始一人て走るような場合は関係ありませんが、相手が存在する時には考慮する必要があります。
 というのは、空気も動いているからです。無風の中を突き進むのと他人の後ろを走るのでは、後者のほうが確実にエネルギーの出費は少なくて済みます。前を走る選手によって空気に流れが生まれ、軽い追い風が発生するからです。故に、空気抵抗を受けながら一人で走るよりは、相手の後ろに着いてエネルギーの消費を抑え、同じエネルギーで速く走ってほうが得をする、という事も多い訳です。しかしこれも程度問題であって、前のペースが極端に速いような時は多少の空気抵抗を受けても一人で走ったほうがいいということもあります。この辺は状況に合わせて作戦を練っておくしかありません。
 イーブンペースに近付けば近付くほど、レースの流れとしては後半勝負という傾向が強くなってきます。一般的にイーブンペースを守って走る選手は稀ですから、周りは前半からガンガン飛ばして潰れてくるということです。


イーブンペースが守れない局面での対応策

 さて、それでは相手をかわす時はどうすればいいのでしょうか。先に述べたように相手の後ろを走っている間は微妙な追い風の中にいる訳ですから、相手をかわそうと横に並んだ瞬間に風は突然強くなるように感じます。無風状態でも空気抵抗があるためこれは同じであって、向い風が強くなればなるほど前に出る時のエネルギー出費は多くなってしまいます。特に、競り合って相手の前に出たり下がったりしていると疲労が大きくなって、とてもイーブンペースどころではなくなってしまいます。では、どうするか。
この場合、「相手の後ろで待って疲れるのを待つ」のが賢明な選択となります。明らかにペースが違う場合は相手も簡単に諦めてくれるので、消費エネルギーも最小限で済みます。「前に出た時の空気抵抗」というマイナス要素を差し引いても自分が相手より余裕があると判断できた場合のみ、安全に前の選手をかわして自分ペースを維持できるのです。この細かいかけ引きを如何に少ないエネルギーでこなすかがポイントと言えます。


理論と実践をどう結びつけるか

 視点を変えましょう。一定のペースを保つことで得られるメリットがもう一つあります。それは慣性です。この世のあらゆる物体は慣性の法則の中で存在しています。静止している物体はいつまでも静止しようとするので、動かすためには大きなエネルギーが必要となります。逆に運動している物体はそのまま運動を続けようとするので、この時に運動を止めようとするとエネルギーの空回りが起きることになります。わざわざ生み出した慣性というエネルギーを自分で打ち消すなどという勿体無い話はありません。むしろ、この前進するエネルギーに乗ってしまいましょう。そうすることによって、より少ないエネルギーでペースを維持することができるからです。
 しかし、このようにイーブンペース理論を考察していっても、結局のところ、実践することに関しては明確な結論は出ないのです。レースは『生き物』なので、状況によって臨機応変に対応していく必要があります。また、相手も同じことを考えている場合も多々ありますので、一筋縄にはいきません。
 人をかわすにはエネルギーが必要ですし、最初に飛び出すのもエネルギーが必要です。つまるところ、エネルギーの使い方をイーブンペースに近づけるためには、他人との駆け引きの回数を極力少なくすることではないでしょうか。レベルの高いレースでは無抵抗に他の選手をかわしていける位置につけることが重要ですし、逆に格下の選手が多い試合では、序盤から好位置につけたほうがイーブンペースを守りやすいかもしれません。しかし、これも数ある中でのほんの一例であって、「絶対」ではないことを付け加えておきます。
 いずれにしても、このイーブンペース理論は、レースにおける的確な判断をする材料を一つ増やすことには成り得ると思います。経験を積むことによって自分なりのレースを作れるよう工夫していきましょう。

執筆:2005年 加筆・修正:2014年7月17日

ホームへ